宗丹狐が見せた一の谷合戦の幻
どんな伝承か
今古奇談によれば、昔、洛西の妙心寺の近くに与次という正直で飾り気のない老翁が独りで暮らしていた。千年を経たという博学多才の老狐宗丹がこの翁と親しく、いつも遊びに来ていた。源平の合戦を知るという宗丹に、翁がその様子を見せてほしいと頼むと、曇った夜でなければできず翁一人に限るという。霜月下旬の朧な夜、宗丹が術を使うと、一の谷の合戦の数万の軍勢の鬨の声や太刀音が響き、矢が雨のように飛んだ。翁が肝を冷やすと幻は消え、聞こえていたのは松風だった。後日、宗丹は大和の源九郎狐とおたつ狐を連れて来て、琴や三味線を奏で、礼儀正しく翁と語り合ったという。
原典より
ある時その狐に源平合戦の様を見せて呉れとたのむと、曇った夜に見せて呉れた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。