天狗にさらわれ馬糞まみれで戻った子
どんな伝承か
寛治のころ、京の五条大路に通じる路地の奥で、宮中の御湯殿に仕える女官が七歳の子と二人で暮らしていた。頼る人もなく、ゆくゆくは子を法師にしようと「あこ法師」と呼んでいた。ある秋の夕暮れ、子どもたちと築地の陰で遊んでいたあこ法師の上に、塀の上から白い布のようなものがかぶさり、布もろとも消えてしまった。母は都中を探し検非違使にも頼んだが手がかりはない。三日目の夜半、戸を叩く者があり、あこ法師を返してやろうという声と高笑いのあと、廊下に何かが投げ出された。見ればあこ法師で、全身馬糞にまみれてぐったりしていた。加持祈祷をしても元に戻らず、十四、五歳まで生きたがその後はわからないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。