月夜の武徳殿の松原で女を喰った鬼
どんな伝承か
仁和三年八月十七日の夜は月が明るく、武徳殿のあたりのまばらな松林にくっきりと影が落ちていた。内裏へ向かっていた若い女三人が松林に近づくと、木陰から烏帽子姿の若い男が手招きをした。一人が男のもとへ駆け寄って言葉を交わすと、二人は大木の陰へ消えた。いつまでたっても戻らないので、残る二人が木の根元を回り込んでみると、そこには女のちぎれた手足が散らばっているだけで、男の姿も血の跡もなかった。二人は悲鳴をあげて右衛門の陣へ逃げ込み、翌日には僧たちを朝堂院に集めて穢れを祓う法事が営まれたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。