太政官の東の廟で喰われた弁官
どんな伝承か
早朝の出仕に遅れた書記の吏生が太政官へ駆けつけると、上役の弁官の車はもう門の内に置かれ、雑色たちが立ち話をしていた。ところが東の廟に入ってみると灯がなく真っ暗で、人の気配もない。雑色たちは、弁官はたしかに火を持たせて東の廟へ入ったと口々に言い張る。胸騒ぎを覚えた一同が灯をともして踏み込むと、弁官の座は血に染まり、髪をくわえて目を吊り上げた首が転がり、血まみれの沓や笏が散らばっていた。院に鬼が出て弁官を食ったと噂されたが、固く口止めされ、噂を広めた雑仕女が追放されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。