温泉の山腹に立っていた消えた妻
どんな伝承か
盛岡のあたりでは、黄昏に女や子供が戸外にいるのをことに嫌う。十年ばかり前、この町で醤油の行商をする者の妻が、夕方ひとり戸口に立って外を見ていたが、そのまま行方がわからなくなった。夫は狂ったように方々を捜し回ったが消息はなく、翌年の夏に綱張の温泉へ湯治に行って、日暮れに宿の外を見ると、わずか一、二町先の山腹の熊笹の中にその妻が立っていた。急いで追いかけたが、しだいに遠ざかって嶺の方へ登り、また見えなくなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪談義(柳田國男選集 五巻)(柳田國男・柳田國男・妖怪学・1956年(昭和31年))
『妖怪談義(柳田國男選集 五巻)』は、柳田國男が妖怪についての論考を集め、昭和三十一年に自序を付して編んだ論集である。妖怪と幽霊の別を説く総論「妖怪談義」に始まり、川童・小豆洗い・ザシキワラシ・山姥・山男・大太法師・一つ目小僧・天狗などを、各地の言い伝えと方言の呼び名から考える。巻末に全国の妖怪の名を短い説明つきで集めた「妖怪名彙」を置き、大藤時彦の解説を付している。