十七の角の大蛇が求めた生娘
どんな伝承か
掃部長者の邸跡に草が伸び、玉のような露が結ぶようになった初夏、止々井ノ沼に突然異変が起こった。地は軽く震え、沼の西北に黒雲が立って水面を包み、生臭い風が吹いて波が荒れた。渦巻く流れの中には十七本の角をかざし、乱れた髪の間から眼をらんらんと輝かせる二十丈余の大蛇が立っていた。大蛇は五十七郷を震わせる大声で、これより一年に一人ずつ眉目良い十六、七歳の生娘を贄として納めよ、さもなければ上下胆沢を一瞬のうちに揺り崩すと告げた。沼の恵みで暮らしてきた村々は大騒ぎとなり、主だった人々は三日三夜協議した末、大蛇の意に従うほかないと決め、贄の順番を籤で定めることになった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
胆沢町史 11(民俗編4)――口承・伝説(胆沢町(編)・胆沢町史)
『胆沢町史 11(民俗編4)――口承・伝説』は、胆沢町の町史民俗編の一冊のうち、第四章「口承・伝説」を収めたものである。第一節は松浦佐用姫と高山掃部長者の伝説を扱い、胆沢・水沢周辺の伝説地を列挙したうえで、町内に伝わる佐夜姫の本地物の写本や『南部叢書』所載の「奥州胆沢高山実伝」を翻刻する。第二節「いさわの昔話」は大蛇・狐・むじな・飢饉・戦後の怪異などの話を番号順に並べ、第三節「いろいろな昔話」へと続く。