岩穴の鬼面様と返らぬ椀
どんな伝承か
険しい山の岩の空洞に鬼面様が住み、近隣の人に椀を貸したという。婚礼や葬式で椀が入り用になると、村人は必要な数を紙に書いて空洞の入口へ置く。翌朝には、書いたとおりの数の椀が入口にきちんと並べられている。百人前でも二百人前でも望みどおりで、いずれも立派な塗りの品であった。使い終えた椀を洗って元の場所へ返すと、夜のうちにどこへともなく消えた。ところがある時、借り手が誤って一人前を割り、数多いなかの一つくらい分かるまいと足りないまま返した。翌朝、椀はいつもどおり消えていたが、それきり、いくら頼んでも貸してもらえなくなったという。鬼面様がいたとされる市場地区の山には、切り立った岩の下に今も祠が残る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。