崎山稲荷の狐が貸した膳椀
どんな伝承か
新井の崎山稲荷大明神は数ある稲荷社のなかでも名高く、遠方からの参詣者も多かった。ここには椀貸しの言い伝えがある。昔の百姓は暮らしが貧しく道具も乏しかったから、法事や嫁取りのたびに膳や椀を親方の家から借りて間に合わせていた。ところが親方に頭を下げるよりも崎山さんに頼むほうが気安く、しかも入り用のものは何でも揃えてもらえるというので、大勢が借りに通ったという。やがて、欲を出して返さない者があったのか、割ってしまって黙っていた者があったのか、とにかく返さぬ者が出て、以後は貸してもらえなくなった。もっとも、その膳椀は崎山の狐が新井の「もんや」の蔵から持ち出して貸していたのだといわれている。
原典より
〈高木―「椀貸穴」 柳田―「椀貸穴」〉朝来町新井の崎山稲荷大明神は、数多い稲荷社の中でも有名で、遠くから参る人が多かった。—— 日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。