鉦の音が絶えた本海行人の入定
どんな伝承か
江戸時代のはじめ、加持祈禱にすぐれ、病む人々を訪ね歩いて救ったという修験者がいた。名を本海行人という。年老いて旅に出られなくなったある日、門弟たちを呼び集め、入定する旨を告げた。大日堂の傍らに墓穴を掘らせると、白装束をまとい珠数を手にかけ、棺の底へ敷かせた座布団の上に端座して、前に鉦を据えた。鉦の音が途切れたら成仏したしるしだから、息をとる竹筒を抜けと言い残す。三日目に音はやんだ。寛文十年九月二十五日のことで、塚の上には供養碑が建てられている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。