松の梢で糸車を回す銀色の大狐
どんな伝承か
宮崎村(現在の額田郡額田町)には、祖母の膝で聞かされると思わずしがみつくような怖い話がある。大字石原の字古城に年を経た狐が住みつき、通行人を悩ませていた。腕に覚えのある猟師が仕留めようと機会をうかがい、風もなく月もない闇夜、怪しいものが現れるという松の大木に忍び寄った。すると大木の梢がにわかに昼のように明るくなり、美しい女が灯をともして黙って糸車を回している。夢中で鉄砲を撃つと闇に戻ったが、今度は木の根元が明るくなり、同じ女が籠を手に人骨を拾い集めていた。ひるめば負けと籠を狙って撃つと確かな手応えがあり、あたりは静かな闇に戻った。恐る恐る近寄って改めると、それは全身銀色の大狐だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。