幼子のために若木に実らせた弘法栗
どんな伝承か
北設楽郡名倉村の猪沢の裏山、吹上峠の一帯には弘法栗と呼ばれる柴栗が生えていて、三尺ほどの若木にもたくさん実がつく。千百年あまり昔、この峠に栗の大木があり、秋には子どもたちが争ってよじ登って実を取ったが、登れない幼い子は木を見上げて泣くばかりだった。通りかかった一人の旅の僧がそれを見て、泣かなくてよい、来年からはお前たちにも取れるようにしてやると言い、夕日に向かって手を合わせ念仏を唱えて去った。翌年から栗はどんな若木にも鈴なりに実り、小さな子どもたちは大喜びした。あの旅僧こそ弘法大師だったのだろうということになり、弘法栗と呼ばれるようになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。