貝坂の夫婦銀杏に出た古狐
どんな伝承か
麹町の平河町四丁目から五、六丁目の間へ通じる坂を貝坂といい、その道筋は貝坂通と呼ばれる。坂には夫婦銀杏、または八幡太郎旗懸けの銀杏と称する大木が二本あり、旗を懸ければ品川沖の船が目印にしたというほどの大きさだった。この木のあたりに夜ごと怪しいものが現れて通行人を脅かすという噂が江戸じゅうに広まり、化け銀杏、怪坂とも呼ばれた。腕自慢の旗本や一刀流の筑波三平が退治に向かったが、枝の鳴る音に腰を抜かしたり、天狗に襟首をつかまれて気絶したりするばかりだった。のちに姫路の浪人で義勢流の剣客、鈴木伝内兵衛が三晩目に坊主へ化けた相手を打ち止めた。正体は五、六百年を経た古狐だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。