番頭に化けて通った我善坊の古猫
どんな伝承か
麻布の我善坊谷に万屋という質屋があった。娘のお玉は近所で評判の美人で、番頭の長次郎と人目を忍ぶ仲だった。ところがこの谷に棲む古猫がお玉に目をつけ、長次郎の姿に化けて夜ごと寝所へ通う。お玉は気づかず、日ごとに衰えていった。ある夜、お玉の悲鳴に親たちが駆けつけると、三尺もある大鼠が猫の喉笛に食らいついて争っていた。鼠は逃げ、猫は血にまみれて死んだ。それからお玉は快復したが、噂が立って婿の来手がなく、長次郎と夫婦にさせられた。生まれた子は顔が猫に似て、泣き声も猫のようだったという。大鼠は質蔵の縁の下に長く棲みついていたもので、恩返しをしたのだろうと語られた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。