担いだ大岩とともに昇る空
どんな伝承か
松崎の菊池某という今年四十三四の男は庭作りの上手で、山に入っては草花を掘って庭に移し植え、形の面白い岩は重さを厭わず担いで帰るのを常としていた。ある日、少し気分が重いので山に遊んでいると、今まで見たこともない美しい大岩を見つけた。持ち帰ろうとしたが非常に重く、ちょうど人が立った形で丈も人ほどある。それでも欲しさのあまり背負って十間ばかり歩いたが、気の遠くなるほど重いので路の傍に立ててもたれかかった。するとそのまま石とともに空中へ昇っていく心地がして、雲より上と思われる明るく清い所に出た。あたりに色々の花が咲き、どこからともなく人声が聞こえた。気づいた時はもとのとおり石にもたれていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。