飾り馬から消えた雫石の花嫁
どんな伝承か
岩手山の麓の雫石という村の話。相応な農家で娘を嫁に遣る日、飾り馬の上に花嫁を乗せておいて、ほんの少しの時間手間取っていたら、もう馬ばかりで娘はいなかった。方々を探し抜いてもどうしても見当たらぬとなってから数か月も後の冬の晩、近くの在所の辻の商い屋に五六人の者が寄り合って夜話をしている最中、からりとくぐり戸を開けて酒を買いに来た女が、よく見るとあの娘であった。人々は動転して口を切れず、女は酒を量らせて勘定を済ませ、さっさと出て行った。すぐ跡から飛び出して左右を見たが、もうどこにも姿はなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。