本所の下屋敷に近づき遠のく狸囃し
どんな伝承か
深夜にどこからともなく太鼓などの音が聞こえてくる怪異を狸囃しといい、とくに江戸の町にしばしば出現したという。平戸藩主松浦静山もそれを聞いた一人であった。静山の下屋敷は本所にあり、そこにいると夜になるとときどき遠くから鼓の音が聞こえてくる。どこから聞こえるのかと調べに出ても場所がわからない。ある年の夏には、屋敷の南に聞こえていた鼓の音が急に近くなり、屋敷の内部で鳴っているように思えた。急いでそのあたりへ行くと音は別の方角へ遠ざかり、また次第に大きくなって再び屋敷内で鳴り響いた。近くの屋敷でその夜に鼓を打つ者はいなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
異界巡礼(小松和彦)
『異界巡礼』は、小松和彦が著した民俗学の論集である。狐が人に化ける方法と如意宝珠、蓮如絵伝の異人、鬼退治譚と怨霊、家の盛衰をめぐる民話、夢信仰、巫女と陰陽道、洞窟や龍宮の他界観、人を神に祀る信仰、神隠しなどを、昔話・説話・絵巻・お伽草子と高知県物部村などでの調査をもとに論じる。論考と随想を部に分けて並べ、「民俗のランドスケープ」の部には妖怪、凧上げ、祓い、霜月祭り、呪い人形をめぐる小文を収める。