錫杖を振る地蔵に化けたタヌキ
どんな伝承か
日が暮れると、この坂にどこからともなく地蔵が現れた。通り過ぎようとすると声をかけ、錫杖を振り回して歩き出す。しまいには入道の姿になって笑うこともあったという。正体は、袋町の光照寺の境内に棲むタヌキであった。境内の榎林の大木の根元に大穴があり、そこに棲んでいたが、寺の子安地蔵の参詣が盛んで穴から出られない。そこで代わる代わる化けて人を遠ざけたのだという。噂を聞いた払方町の武士が坂上を通ると地蔵が上ってきたので抜き打ちに斬りつけたところ、錫杖で受け止めて声を上げたのは日ごろ親しい仲間だった。以来この坂を地蔵坂と呼ぶ。
原典より
時代 江戸時代享和(一八〇一―三)のころ日が暮れると、この坂にどこからくるのか地蔵様がときどき現われるのであった。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。