焼餅をめぐる小僧の頓知
どんな伝承か
昔、ある寺に一人の小僧がいた。小僧は門徒から貰った餅を和尚に内緒で二つだけ庭の隅に埋め、笹を垂れて印にしておいた。翌朝起き出してみると一面の大雪で、小僧はがっかりして「雪降りて標の糞も見えざれば二つの餅は何処にあるかな」と口ずさんだ。聞きとがめた和尚がもう一遍言ってみろと言うと、小僧は驚いて「雪降りて標の石も見えざれば二人の親の墓はどこかな」と言い直し、和尚は殊勝な小僧だと感心して菓子を与えた。またある時、小僧は供え餅をくすねて焼いたが食べ場所に困り、雪隠へ忍び込むと和尚がしゃがんでいた。和尚も口をもぐもぐさせていたので、小僧は気を利かせて餅を突き出したという。
原典より
昔、ある寺に、一人の小僧がゐた。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。