鹿野山へ抜けると伝わる鉈切の窟
どんな伝承か
安房郡西岬村大字浜田の鉈切の宮、すなわち浜田神社の傍らにある洞窟は、君津郡天羽郷の鹿野山まで、道のり三里の間を抜け通っているといわれる。近ごろ、一人の修験者がこの窟の中を極めて見ようと、蠟を蓄え手松明を持って洞に入った。三日を経て犬は帰ったが、修験者は戻らなかった。その記すところによれば、窟の中は迂回して幾曲がりあるとも知れず、怪しいことであったという。里人の言うには、洞穴の内には錠があるという。また、修験者の連れていた犬がこの洞から出てきたとき、赤肌になって毛が一本も残っていなかったとも伝えられている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。