弘法大師が杖で湧かせた神余の塩井
どんな伝承か
安房郡豊房村のうち神餘の金丸川のほとりに、昔、身寄りのない貧しい寡婦が住んでいた。大同元年五月十八日、一人の修験者が一夜の宿を求めて訪れ、寡婦の勧める茶に塩気がないと知ると、傍らの井戸に杖を立てて祈った。すると海から四里も離れた山奥のこの井戸に塩気が宿り、以来絶えることなく塩水を里に供給し続けたという。修験者は礼を言う間もなく姿を消したと伝わる。明治の中頃、この塩井の水を内務省衛生局で分析させたところ、一升中に三瓦の食塩が含まれていたことが実証されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。