切ると言っただけで怒った天狗の松
どんな伝承か
今から約百年ほど前、明治初期の広島県高田郡美土里町北での話。雪も消えた弥生の頃、五、六人がいろりを囲んで話していた。そのとき一人が、自分の山には大きな松の木があるから、あれを切って薪にすればこの春中は楽だろうと言った。その夜、その家の納屋のほうで煙の臭いがするので行ってみると、黒い大きな人がいた。部落総動員で探したが分からなかった。気味が悪いので神主に清めてもらうと、あの松は天狗さんの気に入った松で、それを切ろうと言ったので怒られたのだろうと言われた。その後もその松に挟まれて死にかけた者がある。それで土地の者は旧の四月五日に祭りをし、小豆飯と酒を供える。松は今は枯れているが、誰も手をかけない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。