弟が振り返らず渡っていった橋
どんな伝承か
昭和五十年十二月三十日の深夜、午前二時頃のこと。岩手県にいる弟の看病疲れで帰って来て眠っていると、姉ちゃん、おら重たくて歩けねえと、訴えるような悲痛な言葉で私を揺り動かす者がある。見ると弟は幼い数人の弟妹を労働でたくましくなった体に縛りつけ、身動きできず困惑している。見かねて手をさしのべようとしたが、弟は重そうに川へ向かい、幼い頃に河童が出ると言われた川の橋の前まで来ると、こちらを見てさよならを言うようにし、一人で振り返らず橋を渡って行った。びっしょり汗をかいて目が覚めた。弟の悲報があったのは翌日の大晦日、やはり夢を見た時刻であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。