水路と泥沼をさまよう昏睡の旅
どんな伝承か
小西玲子は二十五年前、胸椎の血管腫瘍を摘出する手術を受けたが、出血が多く取り切れないまま縫合された。体内の出血が続いて昼夜輸血が行われ、何度も昏睡に陥る。その最中の体験だった。幅一メートル半ほどの暗い水路に、白いドレスで手を胸に組み静かに浮いていた。冷たさも音もなく、満ち足りた気持ちだったが、前後にも同じように横たわる人がいて、顔だけが水に溶けたように見えない。皆が少しずつ流され、先頭から穴に吸い込まれて消えていく。自分の番という寸前に体が浮き上がり、闇は一転して春霞のかかる花の野に変わった。白い径の先で笑う老人に近づくと姿は消え、足元は泥沼となってネズミや人の死骸が絡みついた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。