狐と狸が夢枕に立った雷汞工場
どんな伝承か
明治三十九年、小石川の砲兵工廠にあった雷汞製作部が滝ノ川村へ移された。敷地の隅の小さな稲荷の祠を取り壊して地ならしをすると、製作所部長である少佐の夫人の夢枕に狐が現れ、住処を荒らし祠を壊した恨みは深い、一族を残らず取り殺すと告げた。それが幾晩も続き、子供二人が急病で死んだので、少佐は新たに祠を建てて大祭を営んだ。年が明けた二月、今度は少佐自身の夢枕に古狸が立ち、狐だけを祀って自分を侮るのか、手下が老友三匹を撲殺して狸汁にしたのは許しがたいと責めた。ほどなく工場では石の雨が降り、大入道や三つ目小僧が現れる騒ぎが続いた。やがて鉄管の中に寝ていた狸三匹を殺したと自首する者が出て、夢の申し立てが事実だったと知れた。
原典より
昭和五十年の summerのこと。—— 現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。