椿を植えて洞窟に入った漁師の娘
どんな伝承か
小浜の空印寺には八百比丘尼が入寂した洞窟とされる所があり、かつては京へ抜けられると言われたが、二十年ほど前に崩れ、今は奥行きもほとんどない。小浜に伝わる話の一つでは、近くに道満という漁師がおり、その娘がある日、浜に流れ着いた珍しい魚を拾って焼いて食べた。それは人魚の肉で、娘はいつまでも年を取らなかった。やがて永く生きることに倦んだ娘は、入口に椿を植え、花が咲くあいだは自分がまだ生きていると思ってほしいと言い残して洞窟に入り、経を読んで二度と出なかった。奥からは鐘の音だけが聞こえたが、その椿も今はない。
原典より
或日のこと、娘が海岸に流れ寄った珍魚を拾つて来て、その肉を焼いて食べた。—— 福井縣鄕土誌 民間傳承篇(中塩清之助(編)・福井縣鄕土誌・1939年(昭和14年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
福井縣鄕土誌 民間傳承篇(中塩清之助(編)・福井縣鄕土誌・1939年(昭和14年))
『福井縣鄕土誌 民間傳承篇』は、福井市立実科高等女学校の郷土誌第二輯として教諭中塩清之助が編み、昭和十四年二月付の学校長金岡正孝の序を巻頭に置く。丹生郡の名、哭女、越前萬歳、仏の舞、幸若舞、猫塚、隠れ里、子育て幽霊、愛発の関、弁慶譚、八百比丘尼、水の神女譚を、古文献や他地方の類例と照らして論じる。生徒が集めた県下の昔話は類話をA・Bなどに分けて並べて解説を付し、校正者大村四朗の跋を添える。