鉄砲を手に旅人を追う鰍沢のお熊
どんな伝承か
山奥の一軒家に女がひとりで暮らしているというだけで、その家は魔性めいて見える。しかも主が老婆ではなく若い女であれば、凄みはかえって増す。落語『鰍沢』に出てくるお熊はその典型で、花魁あがりの色っぽい女である。旅人にしびれ薬を盛り、亭主が息絶えたあとはその鉄砲を手に、思うように体の動かない相手を血相を変えて追いつめる。中村希明は、黒塚の鬼女とはまた違うこの迫力を、旅そのものが危難と隣り合わせだった時代の恐怖の裏返しとして読んでいる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。