船宿へ入った影と平井村の老人の死
どんな伝承か
明治八年の報知新聞に載った話。五月二十一日の夜更け、東京米沢町三丁目の船宿柏屋の主人三四郎は、戸口を激しく叩く音に起こされた。押し込みかと恐る恐る戸を開けると巡査が立っており、橋の上を巡回中に怪しい男がこの家へすっと入ったのを見た、盗賊に違いないから明かりを用意せよと言う。三四郎はろうそくを手に台所から二階の隅々まで一緒に見て回ったが、家族のほかに誰もいない。不思議に思っていると、翌々日の昼ごろ、平井村の六十過ぎの親類の老人が、その夜に息を引き取ったという知らせが届いたという。
原典より
鵜殿式部といえる人の、奥にて召使い、数年奉公して目をかけ使いし女、ひさびさわずらいて暇を乞いし故、養生の暇をつかわし、しばらく過ぎけるに、右女来りて式部母隠居の宅へ至り、久びさ厚恩にて養生いたし有難き由をのべければ、老母…—— 日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。