乳母奉公の女が見た下婢の幽霊
どんな伝承か
遠野の侍、勘下家に伝わる話である。佐々木喜善の知人にあたる岩城某の祖母は、若いころこの家へ乳母奉公に上がっていた。ある晩、夜更けに乳をやろうとして、子を寝かせたエチコのそばへ行くと、三十前後と見える美しい女がかがみ込み、中の子をじっと見つめていた。驚いて隣の間の主人夫婦を起こしたが、そのときにはもう女の姿はなかった。この家では二、三代前の主人が下婢に子を産ませ、本妻の嫉妬から女は毒殺されたと伝わる。祖母が見たのはその霊であろうと噂された。のちに雨戸を締めに出た折、戸袋のわきに同じ女が坐っていたこともあったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。