墓所を移せと迫る妻の死霊
どんな伝承か
会津若松の藩士で剣術指南の青木秀三郎は、同じ家中の沢本某の長女おるいを妻に迎えた。仲睦まじい夫婦を妬む噂が立ち、おるいは夫に昔の女がいると思い込んで嫉妬を募らせ、病の床に臥して八月十六日の夜、二十一歳で世を去った。臨終に、裏の山の麓の平地に葬ってほしい、朝夕居間を見通して夫を見ていたいと遺言する。秀三郎は菩提寺の和尚と相談し、本堂の裏庭に埋めて手厚く供養したが、三十五日の夜から座敷や書院が震動しはじめた。やがて髪をふり乱し血の涙を流すおるいの死霊が現れ、遺言の場所に葬らぬ恨みを訴える。裏山の麓へ改葬すると霊は鎮まった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない明治の怪談集である。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が百物語の会を開き、武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、自分の見聞や親から聞いた話として順に語る。冒頭の「百物語の開筵」で会の趣向を述べ、続いて会津・三河・江州・若狭・盛岡・八戸などを舞台にした話を題ごとに並べる。