十円紙幣を金毘羅の御札と拝んだ老婆
どんな伝承か
伊豆国那賀郡松崎の村に住む寡婦の老婆・多喜は、神棚に十円紙幣を祀っていた。知人が理由を尋ねると、ある日海辺で油紙に包まれた金毘羅様の御札を五、六十枚拾い、粗末にしては罰が当たると思って一枚だけ持ち帰り、残りは拝んで海へ流したのだという。実はそれは明治新政府が独逸で製造させたばかりの新紙幣で、藩札しか見たことのない文盲の彼女には金毘羅大権現の守札としか読めなかった。峡中新聞に載った明治初年の珍聞という。
原典より
老婆が金毘羅様の御札と思っていたのは、当時新しく出来た十円紙幣であったのである。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。