雪の孟宗藪に頭を出した筍
どんな伝承か
城下を離れた安芸郡牛田村字天水の太田民吉の母きよかは、一月四日、八十二歳の高齢で亡くなった。舅姑に孝養を怠らぬ善行者で、明治十五年十月十三日に緑綬褒章を賜っている。次男の胤太郎も生来孝心が深く、幼い時に渡米して少なからぬ蓄財を得て帰り、老母に安楽な余生を送らせていた。その三日のこと、病床の母を見舞おうと家の西側の孟宗藪まで来かかり、雪に足を滑らせて藪へ転んだ。落とした二十銭銀貨を雪の中に探すと、この寒中にあるはずのない筍が二寸ばかり頭を出していた。もう少し延びたら掘って御馳走しようと告げると母は喜んだが、その翌日に息を引き取った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。