檜の山ツボケ森で鳴動した山神
どんな伝承か
「谷の響」二之巻の「山霊」に見える話である。中村某という人が、天保九年の凶作の年に東浜の奥内村へ勤番していたところ、百姓たちが山に入って檜の皮を剥ぎ取るというので、これを制するため山中の見分に巡り、ツボケ森というところに至った。ここは檜の多いことで知られる。登ろうとすると案内の者が、この山には山神が住み、登る者があれば必ず風雨が起こって人を傷つけるからお止めなされ、と引き止めた。中村は、公の事で登るのだから山神も難を与えまいと言い、一人で登った。二十町ほど来たとき、海鳴りのような響きが渡って山が鳴動し、暴風が葉を裂き木を折り、大雨と雷が襲った。駆け下りて村に近づくと、雨の跡は一滴もなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。