姥石を割った石工と大男
どんな伝承か
岩手県紫波郡志和村の山中に姥沢と呼ばれるところがあり、この沢に姥石がある。この石に手を触れてはならぬと言われていた。あるとき村の豪家が土蔵を建てるため姥石を切り割って石材にすることになり、村の松森の甚兵衛という豪胆無類の名工が頼まれ、その年の正月八日に一人で姥沢へ入った。姥石の肩の辺りからたがねをかけて割り始めると、拭ったような晴天が俄かに掻き曇って大雷雨がやって来た。黒雲の中から大きな手が現れて甚兵衛の襟元をつかみ、誰の許しを受けたと罵って三度大地に叩きつけた。見上げると身の丈一丈余り、真赤な衣を着て顔は朱のごとく赤く鼻の長い大男が立っており、甚兵衛は気を失った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。