あばら家に満ちた蝶と黒髪の白骨
どんな伝承か
蝶の妖しい話が宮城県地方にある。奥州白石あたりを旅する侍が、蔵王の山麓にさしかかった。ひと息つこうと一軒のあばら家の戸を叩いたが返事がない。戸を開けて一歩踏み込み、侍は息をのんだ。暗い座敷に、幾千幾万とも数えられぬ蝶が美しくまばゆく重なり合っていたのである。明かり取りの戸を開けた瞬間、蝶どもはいっせいに、虹が立つように羽音もなく涌き立って飛び去った。蝶のいたあたりには、黒髪だけがそのままの女の人骨が横たわっていた。里びとに問うと、この女は蝶を愛し、蝶を求めて蔵王をたずねたまま戻らず、このあばら家で息を引き取り、からだじゅうから湧いた蛆が蝶となって飛び立ったのだろう、と答えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・昭和中期(1977年頃))
ザシキワラシ(座敷童子)と福の神(怪談の世界)/遠野・東北の怪異伝承/家運の盛衰と怪音/妖怪と幽霊譚/山田野理夫の怪談採集