娘の声に導かれて咲いた朝顔
どんな伝承か
文化十二年、弥八郎の娘せいは風邪をこじらせて世を去った。嘆く両親は明け暮れ娘の話ばかりしていたが、秋になって母が娘の文庫を開けると、絞りや瑠璃と色ごとに分けて包み、書き付けまで添えた朝顔の種が出てきた。母は娘の心を汲んで鉢に蒔き、朝夕水をやったが、葉と蔓が伸びるだけで花はつかない。ある日、父が上野東叡山の普請場へ出ている間、母がうとうとしていると、娘の声で花が咲いたと呼ばれた。驚いて鉢を見に行くと一輪だけ開いており、その花は昼も夜も、翌朝までしぼまなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。