淵の底へ帰らされた若侍と鐘の音
どんな伝承か
秋田の仙北郡神宮寺の獄ノ下に洪福寺淵がある。この淵の底には鐘が沈んでいるといい、鐘ヶ淵ともいう。秋田の領主佐竹家の当主が船遊びをしてこのあたりにかかると、淵の水の中から手が出て、積んであった鉄砲の一挺を掴んで引き込んでしまった。当主が取り戻してこいと命じ、近習の半沢英二郎が水に飛び込むと、水底は明るくなり、大きな門と坂みちがあり、屋敷の玄関前に鉄砲が置かれていた。現れた白髪の老人は、鉄砲を渡すかわりに三日のうちにここへ立ち戻れ、違えれば半沢一族の命はないと告げた。英二郎は鉄砲を返上して暇を乞い、水底へ入ってそれきり姿を見せなかった。水底からは鐘をつく音がきこえたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。