天井裏を走る足音と檀家の死
どんな伝承か
昭和四十八年五月二十九日の朝八時半、新築して二年、鼠一匹入る隙間もない庫裡の天井裏を、脚の悪い大きな犬がびっこを引きながら走り出したような、ドタンドタンという物凄い音がした。鳴き声はせず、屋内を歩けば怪音は頭上をついてくる。走れば緩急も自在であった。昼、檀家の老爺が亡くなったとの報せが来た。この老人は晩年足が悪く、びっこを引いていたという。昭和五十年十二月七日にも天井裏を鼠が走るような音がし、その夕方には止めてあるはずの水道から水の出る音がした。同じ頃、入院中の老媼が、今和尚さんのところへ行ったが来るなと戻された、と家人に話しており、一週間のうちに二人とも亡くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。