猛訓練の怨念が便所に出る白い影
どんな伝承か
明治から大正にかけての話で、現役を終えて帰った兵から聞いたという。富国強兵の時代、兵の訓練は厳しく、全国最強を誇った善通寺第十一師団の中でも、土佐のいごっそう部隊と呼ばれた高知朝倉の歩兵第四十四連隊は際立って猛烈だった。心身の少し弱い新兵は猛訓練に耐えかねて脱走したり自殺したりし、上官や古参兵の前に出るより敵弾の前の方がましだと漏らしていた。そうした怨念は、夜ごと便所へ行く兵の前に白い姿で現れたり、ノックして入ろうとした個室の中に濃い影を残してすっと消えたりしたという。
原典より
昭和十九年頃、マニラに上陸して競馬場の柵の中に宿営したが風呂がない。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。