高須の茶店の女けいの身の上
どんな伝承か
菅澤家の前の道を少し行った右手、水田のきわに、酒や駄菓子を置く茶店があった。草屋根の崩れかけたあばら屋で、けいという二十七の女が、五つになる男の子の正を連れ、七十になる祖父と祖母のもとで暮らしていた。けいは十五で男を知り、小学校を出てから村の家へ三年ほどお針に通ったこともある。正は茨城の方へ出ていたときに生んだ子だという。生きるためでもあったが、もともと身持ちが放縦で、無知で気のいい女のもとには多くの男が寄ってきた。おはなに裏切られた熊もその一人となり、金を工面して女の家に尽くしたが、女は熊をくみしやすい相手と見ていた。
原典より
小學校を卒業して村の十郎右衛門の家へ三年ばかりおはりに通つてゐたこともあつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。