干鰯の代金をめぐる熊と斎藤軍司の喧嘩
どんな伝承か
熊は三年前から、八日市場野代の肥料商斎藤軍司と約束して干鰯を開墾地へ売り込んでいたが、女を探して遊び歩くうちに代金をすっかり使い込んでしまった。口をきく者があって熊の家の薪を渡して片をつけることになったが、運んでみると十五円分多く渡していた。熊がその分を求めると軍司は応じず、熊は道で会うたびに殴ると言い放った。やがて二本松の松本屋で二人が顔を合わせると、熊はなおも薪代をよこせと迫り、軍司も怒って佐平老人の制止を振り払い、夕日の射す道へ飛び出した。二人はつかみ合い、もつれて地面を転げ回り、駆けつけた近所の者にようやく引き分けられた。
原典より
軍司は佐平老人の変へやうとするのを振りはらひ、庭に飛びおりて夕陽の射した道の上に出た。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。