日本刀を閃かせた黒外套の小男の押し込み
どんな伝承か
永島方から日本刀が盗まれたのに続いて、同じ山倉村の木内みやの家では、北側の裏手の雨戸に穴をあけて錠を外そうとした者があった。うまくいかないと見るや、今度は炊事場の板戸を千枚通しのような道具で破って手を差し込み、まんまと雨戸の錠を外して押し入った。黒い筒袖の外套を着て顔を包んだ小柄な男で、片手に懐中電灯を持ち、片手に刃渡り一尺ほどの日本刀を閃かせていた。主婦のおみやと長男は恐ろしさに、取り混ぜて五円九十銭ほどの金を差し出し、賊はそれを持って立ち去った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。