用心棒を奪って寝室に迫った賊
どんな伝承か
大正四年の暮れも押し詰まった三十日の夜、香取郡八都村の仙太郎の家に、台所の裏の雨戸を開けて賊が入り込んだ。背丈は五尺二寸ほど、インバネスを着て鳥打帽をかぶり、手には刃物を光らせていた。賊は家に上がるなり、そばに置いてあった用心棒を先に取り上げてから寝室へ行き、刃物を突きつけて脅した。仙太郎が今夜は一銭もないと答えると、賊はそのまま出て行き、隣の醤油醸造業高隊佐七の家へ向かったが、犬に吠えられて引き返していった。
原典より
背たけは五 二 の黒い のの に似てるるが、それはインバネスを着、 打帽をて、 の手には驚世 の手には を光らしてゐた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。