松林に消えた鳥打帽の男と洋傘
どんな伝承か
警察は手がかりを求めて油田開墾へ向かった。神里や八都など四か村にまたがり、松林に囲まれた耕地で、賊が潜むにはまたとない場所だった。道ばたで塩煎餅と団子を売る白鳥という男が、三十日の朝九時ごろに見た客の話をした。三十前後の面長で色白、鳥打帽にインバネス、洋傘を持ち、団子を二十銭買って半分ほど食べ、別に菓子を二包み買って松林へ入っていったという。日ごろそんな買い方をする客はいないので気に留めていると、のちに林の中に柄の折れた洋傘が捨てられていた。加藤署長が調べさせると、太田校長の盗まれた品だった。
原典より
油田開塾の道ばたに鹽煎餅と團子を賣つてゐる店があつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。