麹町の裏店に居ついた病の女
どんな伝承か
麹町の裏店に住む独り者の甚九郎は、近郷近在へ小間物の行商に出るのが本職で、疲れた日や天気の悪い日でなければ店の戸を開けなかった。ある春の夕方、客もないので煙管をくわえてうとうとしていると、重苦しい物音がして、店の上框に若い女が黙って腰を下ろしていた。前かがみで額に手をやったまま小半時も動かない。声をかけると、目まいがして倒れそうになったので断りもなく店先を借りた、この上は今晩一晩泊めてほしいと言う。見知らぬ一人旅を泊めるのは憚られたが、女が三分の銭を差し出したので甚九郎は折れた。薬を飲ませ粥を炊いてやると、女は貸した蒲団にくるまってすやすやと眠った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。