三人目の首吊りを招いた庭の松
どんな伝承か
昭和八年九月のこと。中野の通りから少し入った十字路の角の家に、荒牛雪という二十歳の娘が奉公していたが、家の都合で四谷舟町の実家へ戻っていた。ある日、雪は舟町の知り合いの家を訪ね、誰かに呼ばれている気がして落ち着かないので中野へ行ってくると言い残した。その足で出かけたきり、夜更けても帰らない。案じた父が奉公先を訪ねると来ていないという。引き返そうとしたとき、門の右手の庭にある松の木に黒いものが下がっているのが電灯に照らされて見えた。首を吊った娘だった。医者が呼ばれたが、息を引き取って九時間が経っていた。この松では雪が三人目の縊死者だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。