道玄坂から乗せた三人目の客
どんな伝承か
夜の九時ごろ、渋谷の道玄坂を流していた自動車が、横町から出てきた三人連れの女客を銀座までと言われて乗せた。二十前後の娘が二人と、母親らしい年配の女である。気分よく走らせて銀座で降ろすと、客は母親らしい女と娘の二人になっていた。もう一人の娘はどうしたのかと尋ねると、母親は厭な顔をして、初めから二人だ、どうかしたのかと言い返した。運転手は首をかしげたが、背筋に寒気を覚えてそのままハンドルを握った。後に疲れからの錯覚だろうとからかわれても、交替して二時間も経っていないと真顔で否定した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。