大空襲の焼け跡で失った死の恐怖
どんな伝承か
一九四五年三月九日から十日にかけての東京大空襲のとき、女学校二年だった女性は深川に住んでおり、直撃を受けた。一家六人は近くの藤棚のあるコンクリートの陰に隠れ、熱風が来るたびに父の「息を止めろ、目をつぶれ」という声に従って一晩を耐え、助かった。避難所となった学校へ逃げ込んだ人々は熱風で蒸し焼きになって死んだという。翌日、食糧を探しに出ると一帯は死体で埋まり、焦げずに白い蠟細工の人形のように見えた。女はうつ伏せ、男は仰向けだった。彼女はこの体験以来、死の恐怖を失ったと語る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。