行者に憑いた太郎狐の申し出
どんな伝承か
平野は、母の病が医者の薬では治らないのを案じていたところ、友人から東京の大塚に病気直しの上手な北村という行者がいると聞いた。探し歩いてようやく狭い路地の奥に家を見つけ、案内を乞うと薄汚い爺さんが出てきた。座敷には神壇が設けられ、供え物が並んでいる。母の全快を願い出ているそのとき、一匹の狐が欄間の近くを音もなく飛んで部屋へ入るのが平野の目に映った。修行らしい修行もしたことがないのに、初めて霊視が働いたのだという。同時に北村爺さんの口調が変わり、病気直しは引き受けるから代わりに自分を祀れ、そうすれば巨万の富を授けると告げた。狐は巣鴨のとげ抜き地蔵境内の稲荷に籍を置く太郎と名乗った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本神異見聞伝(笠井鎮夫・1974年(昭和49年))
『日本神異見聞伝』は、笠井鎮夫が昭和四十九年に著した霊異の見聞記である。第一篇では、大正期に大本で鎮魂帰神を受けた著者が、霊媒による死者の招霊や狐霊・竜神の託宣、霊石の発掘などを研究会での語りの口調で伝える。第二篇では、慶応三年のええじゃないかのころ尾張・遠江・駿河・美濃・丹後などで起きたお札降りを、旧家の古文書や郷土史家の便り、著者の現地調査から記録している。