銀座の座敷で語られた前々世
どんな伝承か
釜石の幽霊屋敷を逃げ出してから十年ほど経ったころ、著者は大新聞の部長に誘われた。前世を見ることのできる老婆がいるから会わないかというので、冷やかし半分に出向くと、銀座の料理屋の一室に部長や友人ら数人が集まっていた。老婆は品がよく好感の持てる人だったが、学校教育はほとんど受けておらず、世界の歴史をまるで知らないことがあとで確かめられた。老婆によれば、相手の頭の上に過去が色つきのテレビのように映るのだという。著者の前世はアイヌの酋長の一人息子で、二十三歳のとき流れ矢に当たって死んだ。さらにその前は、玄宗という王の家来で高い位にあり、謀叛を企てて失敗し殺されたと語った。同席者たちはそれは安禄山だと言い合ったが、老婆は歴史を知らぬまま、この人が悪人であるはずはないと言い張った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。山や湿原の探検、チョウや小動物とのつき合い、酒の話とともに、横尾谷の岩小屋で出会った幽霊、木曾御岳の人魂、亡兄との交信、テレパシー、呪い殺しの実験、雨やみの術など、著者自身の体験した怪異をつづる。生き物・酒・山・兄との交信の四部からなり、あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。