背後に立つ牡丹柄の浴衣の女
どんな伝承か
前世を語り終えたあとも、バアさんは著者の頭の上を怪訝な顔で見つめ、あなたの後ろに立っている女の人はいったいどういうご関係の人ですかと聞いた。振り返っても著者の眼には何も見えない。どんな女かと問うと、二十七、八くらいで色白の細おもて、浴衣を着ていてその模様は大きな紺の牡丹の花だという。それだけ聞けば、釜石で毎晩見た幽霊にほかならないことが著者にはわかった。何とか解放してもらえないかと頼むと、バアさんは著者の後ろへ向かって小声でわけのわからないことをモシャモシャしゃべり、やがて笑顔を向けて、納得してくれた、もう二度とかかわりあうことはないはずだと告げた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。山や湿原の探検、チョウや小動物とのつき合い、酒の話とともに、横尾谷の岩小屋で出会った幽霊、木曾御岳の人魂、亡兄との交信、テレパシー、呪い殺しの実験、雨やみの術など、著者自身の体験した怪異をつづる。生き物・酒・山・兄との交信の四部からなり、あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。