背後に立つ牡丹柄の浴衣の女
どんな伝承か
前世を語り終えたあとも、バアさんは著者の頭の上を怪訝な顔で見つめ、あなたの後ろに立っている女の人はいったいどういうご関係の人ですかと聞いた。振り返っても著者の眼には何も見えない。どんな女かと問うと、二十七、八くらいで色白の細おもて、浴衣を着ていてその模様は大きな紺の牡丹の花だという。それだけ聞けば、釜石で毎晩見た幽霊にほかならないことが著者にはわかった。何とか解放してもらえないかと頼むと、バアさんは著者の後ろへ向かって小声でわけのわからないことをモシャモシャしゃべり、やがて笑顔を向けて、納得してくれた、もう二度とかかわりあうことはないはずだと告げた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・昭和(戦後))
西丸震哉『山とお化けと自然界』を篇単位で収録。完全装備で岩小屋前を通過する遭難者の幽霊目撃、木曾御岳の人魂たち、カラステングがタコを食う、亡き兄との交信やテレパシー(死者との通信)、幽霊の仮説・怪談といった山岳怪異譚を軸に、呪い殺しの実験・雨やみの術・日蝕と雨やみの術などの呪術、山の昆虫・メスネコの生涯・ヤマネとムササビ・ミミズク等の自然観察、酒・山旅・会津の秘境/栗駒山密林などの紀行随想を収める。